もうすぐ新年度が始まりますね。「今年こそは」と転職や起業を考える獣医師の方や、4月からの方針決定に向けて業界の情報収集をされているペット関連企業の方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、2024年にペット業界でトレンドになるであろうことを4つご紹介したいと思います。
(筆者紹介)
PEACE Lab 代表、獣医師 椿 直哉
2004年に獣医師免許を取得し、北里大学を卒業。企業動物病院の院長や、センター病院の立ち上げ・運営を経験し、17年にMBAを取得した。21年に独立してPEACE Labを設立し、現在に至る。猫専門クリニックや夜間救急病院、訪問診療などさまざまな形態の獣医療サービスを運営している。
個人・往診でのミニマム開業が増加
農林水産省が毎年発表している「獣医師の届け出状況(獣医師数)」データのトレンドに変化が見られます。コロナ禍以降、放射線施設がない動物病院の開業が増加しているのです。
一次診療を主とする小規模な動物病院でも、ほとんどの場合はレントゲン施設を備えています。よってこのデータは、往診専門の動物病院を獣医師1人で開業する方が増えていることを意味していると思われます。私の肌感覚でも、往診専門の動物病院はかなりの勢いで増加しています。
往診専門で開業する獣医師が増えた理由は、2つ考えられます。
1つ目は、コロナ禍で往診の便利さが広く知られたことです。当初は「不特定多数の人が集まる場所に行きたくない」という飼い主さまが増えたことから、各地の動物病院が往診を開始しました。しかし、具合の悪い動物を動物病院へ連れて行くことは、どんなときでも飼い主さま・ペット双方に多大なストレスがかかります。また、高齢の飼い主さまは、ペットをケージに入れて運ぶだけのも一苦労です。コロナ禍が明けても「往診サービスを利用し続けたい」と考える飼い主さまは多いと思います。
2つ目は、女性獣医師の新しい働き方として注目を集めていること。結婚や妊娠・出産を機に、それまで勤めていた動物病院を退職する女性獣医師は少なくありません。そんな方が家事や子育ての合間に働く方法として、クリニックを持たずに往診専門で開業することが増えているのです。
フリーランスや個人事業主として働く獣医師は増えています。往診専門以外にも、基本は往診をしながら特定の曜日はクリニックに勤務したり、専門医として複数の動物病院と契約したりなど、働き方はさまざま。「子育てをしながら働きたいけど、条件が合う勤務先が見つからない」「一か所の動物病院に縛られず、専門性を活かしてさまざまな患者さんを助けたい」と考える獣医師にとっては、チャンス到来といえそうです。
M&Aや事業継承が加速
数年前までは、動物病院の買収といえば「動物医療を手掛ける大企業が中~大規模病院を買収する」のが主でした。しかし、昨今はベンチャーやスタートアップの企業が個人病院を買収するケースが増加しています。
年齢を重ねても、小規模な動物病院で院長として診察を続けている獣医師の方は多くいらっしゃいます。「体力も落ちてきたし、年齢を考えるとそろそろ引退したい」「けれど、現在通ってくださっている患者さまが心配で閉院の決心がつかない」と悩んでいる方も少なくないでしょう。ベンチャー・スタートアップ企業は、そのようなベテランの動物病院経営者に声をかけるケースが多いようです。
彼らは明確な成長戦略を掲げ、DXなどによるオペレーションの改善手法も持っています。経営者は事業継承が完了して安心できるし、飼い主さまにとっても今までのかかりつけをよりいっそう便利な形で利用できるようになるはずです。
小規模動物病院やトリミングサロンの買収を専門とする海外の資本も入ってきていて、日本国内の獣医療業界全体に影響をもたらすかもしれません。
「総合二次」から「専門二次」へ
これまで一次診療で解決できない専門的な治療が必要な場合は、さまざまな専門科が揃った総合二次診療動物病院を紹介されるのが普通でした。しかし現在、総合二次診療動物病院の各科に勤めていた獣医師らが独立し、「内科」「外科」「眼科」など単一の専門科のみの機能を持つ「専門二次動物病院」を開業するケースが東京を中心に増えています。
近年では、獣医師が専門的な知識や技術を得るための学会や講習会に参加したり、海外で研修を受けて試験に合格すると「認定医」「専門医」などの資格を付与する制度が発達しました。信頼感のある「認定医」「専門医」の肩書きがある獣医師のところには、その治療技術を求めて多くの飼い主さまが来院します。つまり、高度なスキルを持つ獣医師は個人の能力で患者さまを呼び込めるので、大きな病院に所属する必要がないのです。また、独立後は収入もアップすることが多いようです。
一方で業界全体を見渡してみると、専門科を持てるほどの高度なスキルを持つ獣医師はかなり不足しています。そのため動物病院によっては、独立した獣医師の後任を見つけることができず、従来あった専門科を廃止せざるを得ないところもあるようです。
一次診療病院からの最初の紹介先として、総合二次診療の需要はまだまだ大いにあります。経営者としては、高度な技術を持った獣医師を集められるか、彼ら・彼女らが納得して働き続けられる環境を提供できるかどうかが問われるでしょう。
変貌するペット市場…求められる対応策
長い年月をかけて獣医療が進歩し、さまざまな治療が行えるようになるにつれて、動物病院の診察料は少しずつ増加してきました。しかし最近は人件費や薬価、エネルギー代などあらゆる費用が上昇していることから、多くの動物病院がさらなる診察料引き上げを検討している状況です。ペットの医療費が高額であることから、今ではペットの医療保険に入る飼い主さまも増えてきました。
2023年に行われたアンケート調査によれば、1年間でペットの飼育にかかった費用の平均は犬34万円、猫17万円※1だったとのことです。このまま飼育費の増加が続けば、家計に相当な余裕がある家庭でないとペットを迎えるのは難しくなります。現在でも犬の飼育頭数は右肩下がりの傾向※2にあるようですが、いつか日本で飼われている犬・猫の数がガクンと減ってしまう可能性は大いにあるでしょう。
ペットの飼育頭数の減少は、ペット業界全体の規模縮小を意味します。各動物病院やペット関連事業の経営者さまは、まず確固たる経営方針を定め、この先の時代を生き残る準備をする必要があると思います。また、より多くの人にペットを飼ってもらうための取り組みも必要ですが、そのためには企業や業界の垣根を超えた協力が必要でしょう。
まとめ:時代の流れを捉えて行動
コロナ禍が明けて、ペット業界にも新しい潮流が生まれています。時代の変化を目の前にして「自分もフリーランスで開業してみたいけど不安だ」「専門性を活かして動物病院を独立開業したい」「自分が経営する動物病院は今後どのように変化すべきなのだろう?」「自分たちが手掛けるペット関連事業の今後の方針を考えたい」など、お悩みを抱えていらっしゃる方も多いと思います。
そんなときは、PEACE Lab コンサルティング サービスへご相談ください。経営者さまの気持ちに寄り添い、対話を重ねながら、現在の貴院に最適なサポートを提供します。