2023年6月1日に動物愛護管理法が改正され、犬と猫のマイクロチップ情報登録制度がスタートしました。同時に、ブリーダーやペットショップ等で販売される犬や猫について、マイクロチップの装着が義務化されました。また、現在ご家庭で飼育している犬や猫のマイクロチップ装着は努力義務とされています。そこで今回はマイクロチップの機能や装着のメリット、そして災害時の有用性などについてお話しします。
そもそもマイクロチップとは?
マイクロチップは「直径1〜2mm、長さ8〜12mmの円筒形のガラスまたはポリマーのカプセルで包まれた小さな電子標識器具」とされています(日本獣医師会Webサイトより)。これを犬・猫の背中のあたりに装着しておくと、専用のリーダーでその子の固有の番号を確認することができます。
番号は15桁で、最初3桁が「国(日本は392)」、次の2桁が「動物の種類(ペットは14)」、続く2桁は「メーカー」を表し、残り8桁が「個体番号」となっています。1つのメーカーで最大約1億頭まで登録できる計算ですが、2022年時点における国内のワンちゃんの飼育頭数は約705万頭、ネコちゃんは約883万頭(一般社団法人ペットフード協会 令和4年全国犬猫飼育実態調査)ですから、登録数にはまだ余裕がありそうですね(笑)。
ちなみにマイクロチップの装着数は犬で221万頭、猫で76万頭(2023年7月現在)。割合で言うとまだ、犬で約31.3%、猫で約8.6%しか装着していないことになります。ちなみに2019年は犬が17.7%、猫が4.5%でしたので、装着率は増加しています※。
※動物ID普及推進会議のデータによる。日本獣医師会が管理しているマイクロチップのデータベースは、環境省のものと動物IDのものの2つのみ。
なんの役に立つの?
マイクロチップを装着することで、動物たちが迷子になったり、盗難や災害、事故に遭ったりしたとき、身元を速やかに証明することができます。つまり「もしものときに役に立つ」ということなのですが、その一方で「飼育放棄」や「しつけの不行き届き」など、動物を巡る社会問題の解決に向けても、ある程度の効力が期待されているようです。動物たちを迎えた飼い主として、最後まで一緒に暮らしていくことは最低限の責務ですが、マイクロチップはそれを担保するものでもある…ということでしょうか。
また、犬については狂犬病予防法も同時に改正され、マイクロチップが鑑札とみなす特例制度が設けられました。これにより、今後一部の市町村では、マイクロチップを装着しているワンちゃんは鑑札を付ける必要がなくなります。ただし、この制度に対応していない市町村もあるので、お住まいの市町村のホームページ等をご確認ください。なお、2023年8月現在での参加自治体数は252とのことです。
大規模災害発生時にも活躍?
環境省のデータ※によると、東日本大震災の発生に伴って「迷子」として保護された犬たち約2万8千頭のうち、およそ1万2千頭(43.4%)が飼い主の元に帰れたそうです。そのうち、鑑札または迷子札を付けていたのは85頭で、全頭(100%)が無事に帰れたとのことでした。一方、猫は約1万3千頭が迷子として保護されたものの、飼い主の元へ帰れたのは235頭(1.7%)に過ぎません。
マイクロチップについても同時に調査されていますが、その数については正確に把握されておらず、「装着していても登録されていなかった」という事例もあったようです。もし、全頭がマイクロチップを装着し、きちんと登録されていたら、飼い主の元へ帰れた犬猫はもっと多かったかもしれません。ちなみにマイクロチップ装着が確認できた猫は0頭でした。
また、マイクロチップを読み取る装置「マイクロチップリーダー」は、以前は1台数万円する高価なものでしたが、最近はアマゾンでも数千円で購入できるようになりました。私も使っているものですが、読み取るだけなら全く問題なく動作しますので、ご家庭に1台いかがでしょうか♪(特に使い道はないですが…笑)
※環境省自然環境局(犬猫の引取及び負傷動物の収容状況)平成29年度資料
装着したら安心…ではありません!
我が家の猫も一度、家から出ていってしまったことがあります。なんと、台所の引き戸の窓を自分で開けて外出したようです。捜索開始からおよそ30分後、表の駐車場をウロウロ、クンクンしているところを発見されて事なきを得たのですが、その30分間の私は本当にどうして良いか分からないパニック状態。名前を呼びながら走り回るしかありませんでした。
通常、飼い主とはぐれてしまった動物が運良く保護された場合は、保健所や警察、動物病院へ運び込まれます。保護された動物がマイクロチップを装着していないときは、保健所が「こんな犬・猫を収容しています」というアナウンスを出します。そして、約1週間のうちに飼い主から連絡がないと、処分の対象となってしまいます※。しかし、動物にマイクロチップが装着されていれば、保健所もしくは動物病院が直接飼い主に連絡を取ることができます。
以前勤務していた動物病院でも、迷子になって交通事故に遭ったワンちゃんにマイクロチップが装着されていたので、すぐに飼い主さまが見つかったケースがありました。非常にスムーズに引き渡すことができ、飼い主さまもほっとされていました。
しかし、最も大切なのは、そもそも事故に遭わせないことです。ワンちゃんなら散歩で外に出すときにリードを2本付けること、ネコちゃんなら家から出られないよう2重3重の対策を講じておくことをおすすめします。
※神奈川県では、保健所から動物愛護センターもしくは動物保護ボランティアへ移送して新たな飼い主を探すため、殺処分されることはありません。
デメリットもあるのでは?
マイクロチップは「生体適合ガラス」と呼ばれるものでコーティングされているため、体への影響はないとされています。しかし、外側からの衝撃でガラスが割れてしまい、しこりになってしまうケースがごく稀にあるようです。
また、マイクロチップは首の後ろ側のやや左肩寄りに装着する決まりになっていますが、付近のMRI検査を行う際にマイクロチップが邪魔になることがあります。その場合は、事前にマイクロチップを摘出してから検査を行います。
どこで挿入してもらえるの?
マイクロチップの挿入は動物病院で受けられます。自由診療のため、費用は3,000円〜10,000円と動物病院ごとに差があります。挿入時の痛みはかなり少なくなってきていますが、注射を嫌がる子は痛がります。そのため、避妊去勢手術や歯科処置などの麻酔をかける治療を受ける際に、併せて挿入してもらうのがいいでしょう。なお、マイクロチップにはいくつかの種類があり、衝撃に強いものや挿入時の痛みが少ないものなど、それぞれに特長があります。
代表的なマイクロチップ
NITTOKU スマートチップII:衝撃に強い。挿入時の疼痛を緩和する針を採用。
スリムチップバイオポリマー:生体適合ガラスではなく、生体適合樹脂を採用。衝撃に強い。
まとめ
動物病院でもマイクロチップの挿入を希望される方が増えてきていますが、現在すでに動物を飼育されている方は「義務ではないから急がなくてもいいか」と後回しにしてしまう方が多いと思います。しかし、ほとんど害はないため、万が一の事態に備えて装着しておくのがおすすめです。ワクチン接種等でかかりつけの動物病院に行く際に、ぜひ相談してみてください。
近年の異常気象による自然災害は、いつ降り掛かってくるかわかりません。日頃の備えの1つとして、特に山・川・海の近くなど台風や大雨の影響を受けやすい立地にお住まいの方は、装着をご検討いただくとよいのではないでしょうか。
最近は物に付けておくといつでも位置情報が見られる忘れ物防止タグが市販されていますが、動物のリードや首輪に付けて迷子時の探索に使える小型のタグもあります。とてもいいアイデアだと思うので、近い将来にこの機能を持ったマイクロチップが登場することを願っています。